2015.7.30発行 vol.375
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■INDEX■

発行人の気まぐれコラム 4

◇ next・近代。脱・明治

その2 内でも外でも戦争をせず、250年続いた江戸時代

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[江戸時代を参考にすべき多くの事実]

今号では、江戸時代を評価する最大のポイントをズバリ書きます。それは以下の事実です。

■265年間にもわたって、平和を維持することができたという事実。

もちろん、一揆や人身売買や身分制度など多くの問題もあった訳ですが、それが大きな内戦や、もちろん海外との戦争にはつながることにはなりせんでした。疫病や飢饉、天災にもみまわれたのですが、人々が完全に追いつめられて、疲弊する所まではいかなかったのです。そうでなければ、弾圧だけでは、このような長期にわたる政権維持は不可能です。

中公新書「江戸時代」の中で、著者大石慎三郎氏は「一つの巨大民族が250年ものあいだ、まったく戦争をせず平和を楽しみ、文化と富とを蓄積した歴史が他にあるだろうか」と前文で語っています。

もちろん、地勢的な利点あってのことです。海に囲まれて多様で恵まれた自然環境を有し、北から南まで多様ながら、地球規模で見れば極端なものではなく、温暖で農耕や漁業に適したエリアであること。また、その中で育まれた住民の勤勉性や創意工夫の力、自律性と協働力などという希有な要素あってこそ可能だった訳ですが、それを十分意識した上での施政がなされたことは事実でしょう。

明治以降の政権が、そうした利点をしっかり認識することすらできず、77年しか保たなかったこと、そして手痛い大敗北にもかかわらず、敗戦後70年には、すでにまた歴史的に大失敗であったことが明らかな明治あるいは戦前に回帰して同じ過ちを犯そうとしているのを見れば、江戸時代が実現した長期平和の優位性は明らかです。
このことは、現代に比べてずっとゆっくりした時間進行の時代だったからという理由で打ち消されるものではありません。現実に江戸の前は、戦国時代で、目まぐるしく情勢は変化していたのですから。

■限られた国土内での食料とエネルギーの完全自給。リサイクルシステムの確立。

現代でも「食料とエネルギーの自給」が安全保障にとって最大の効力をもつと言われています。
本心で安全保証を求めるなら、原発などという自ら住民を危険にさらすようなものをわざわざ置かないことですし、「食料とエネルギーの自給」に取り組む方向性をもつべきなのです。
そして、リサイクルシステムこそ、地球の資源の枯渇を防ぎ、環境の持続を可能にする、ということは、西洋近代はここせいぜい20〜30年くらいで言い出したことです。

■ 18世紀始め頃の江戸は、諸説ありますが、人口が100万人に近かったと言われており、当時の世界ではほとんど最大にして最も繁栄した都市だったという事実。

■日本の歴史の中でも、文化や芸術・芸能が支配者の権力や財力によってつくられ、その周辺の階層の人々だけが享受したものだった訳ではなく、庶民の活動の中から生まれ、庶民によって広く楽しまれた世界的にも初めてで、もしかしたら唯一の時代だったという事実。

日本は、開国後西洋のまねばかりが目立ちますが、戦後の1970年(昭和40年)頃から、グローバルスタンダードに浸食される前の、せいぜい2000年すぎくらいまでの30年間くらいは、それに少し近づいた時代だったかもしれません。
これは、ばっちり実感が伴っています。実際にデザインやコミュニケーションの会社を運営する中で、生身で感じたことです。前にもご紹介しましたが、2009年の「きゃりあ・ぷれす」で、そのことについて書いてます。
http://www.pangea.jp/c-press/special/Starting300.html

さて、このような事実は、next・近代を考えるにあたって、大いに参考になります。もちろん、交通や情報や物流や世界経済や外交などさまざまな点で、現代と江戸時代とは大きな違いがあります。そして江戸時代が問題のない理想郷だったという訳でもありません。江戸時代に戻れという訳でもありません。
ただ、いくつかのコンセプトは大いに参考になるのではないかと思うのです。

少なくとも、明治あるいは戦前に戻そうという根拠不明の思い入れによる愚かな方向性に比べれば、ずっと展望、将来性があると思うのです。

次号では、江戸時代からヒントを得る、私たちの列島のnext・近代のコンセプトについて書いてみたいと思います。

みなさんのご意見、ご感想などお待ちしております。


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2015年7月30日 『きゃりあ・ぷれす』発行人 宮崎郁子