2015.11.26発行 vol.386
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発行人の気まぐれコラム 4

◇ next・近代。脱・明治

その13 大都市圏だってもっと快適になる。

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前号では、大都市から地元へというお話しをしました。
では大都市はどうなっていけばいいのでしょう。

 

[コンクリートの高層ビルの建設ストップ。]

今の大都市は、決して快適といえる場ではないと思います。成りゆき任せで過密化、拡大、高層化してしまって、とても美しいとはいえない景観です。もちろん住環境、職場環境としても、とても便利ではありますが、エリアとしては決して快適とはいえません。

■ コンクリートは、熱を溜め込み、涼しくなると放出する性質をもつ材料。

特に、今だに超高層ビルがボンボン建ったり、計画がドンドン進んだりすることには、大いに「?」を感じます。

これから、どれだけの人口増加を想定しているのか、どれだけの企業拡大を望んでいるのか、理解に苦しみます。
コンクリートの巨大な固まりの高層ビルが、どれほどのヒートアイランド化を引き起こすのか、すでにはっきりしているのではないでしょうか。

30年以上前、私は3カ月ほどニューヨークにいたことがあります。夏の期間だったのですが、まずびっくりしたのは街ゆく人々が、まったく季節感とは関係なくバラバラの服装をしていたことです。その頃の日本は、今のようではなかったので、季節は少しずつしかるべき方向に変化していました。ですので、服装もだいたいみんな同じ季節対応だったのです。
ニューヨークでは、ある人はタンクトップかと思うとある人は毛皮という感じでした。
今の東京なら、十分ありうるのですが、当時は本当に不思議に感じました。実際に気温も雨が降るとメチャクチャ寒かったり、もちろんカンカン照りなら暑いという感じでした。
まさか30年後の日本がそうなっているとは・・・。
そこには高層ビルの林立、特に臨海部のそれが大きな影響を及ぼしていたんですね。

現在では、海水温の上昇も加わっているとは思いますが、特に臨海部のコンクリートの高層ビルは、日中の太陽光で暖められ、その熱を溜め込んで夜に放出します。さらに海からの風をさえぎります。それは立地している都市だけでなく、内陸にまで大きな気候異常をもたらします。東京でいえば熊谷や館山の異常高温の最大の原因は、特に東京湾岸の高層ビル林立によるところが大きいと思います。

それがわかり切っているのに、未だにコンクリートの巨大な固まりである超高層ビルの建設に規制がなされないのは、まったく不思議でなりません。規制どころか、「再開発の輝かしいプロジェクト」みたいな扱いです。
やれ地球温暖化問題やCO2削減などの大きな話も必要ですが、それより前に、すぐできる足下の対策になぜすぐ取り組まないのか理解に苦しみます。

■ 実はヨーロッパで進んでいる木造高層建築。

何でも「欧米では〜」といって先進事例を語り、「日本は遅れている。追いつけ追い越せ!」みたいな発想を、私はあまり好きではありません。
でも、いいことは学び、さらに改善していくというのは、私たちが2000年ほど前から実行しているやり方なので、良しとしたいと思います。

これも前出の「里山資本主義」で詳しく紹介されている内容なのですが、お手本とするのは「脱原発」を憲法に明記している世界でも珍しい国、オーストリアです。
日本と同じように切り立った山々での林業から「バイオマス発電」とCLT(クロス・ラミネーテッド・ティンバー)の生産を行ない、ヨーロッパを吹き荒れたマネー資本主義の嵐からの影響を最小限にとどめることができた数少ない国です。

CLTとは、直訳すれば「直角に張り合わせた板」という意味です。たったそれだけのことで建材としての強度が飛躍的に高まるのだそうです。これを使った高層ビルが、今ヨーロッパで普及し始めているというのです。コンクリートにも匹敵する強度と耐震性が証明され、地震国イタリアでも急速に普及し始めているのだそうです。
日本でも、すでにこのCLTとバイオマス発電は中国山地で始動しています。日本人なら
さらに改良・改善して、より優れた建材を生み出すことができるでしょう。

あとは、政権や行政が制度や規制の遅れを取り戻すのみです。

都市の快適性と山間地の経済活動のリンクは、ワクワクしたこれからを予想させてくれませんか?

 

[新築からリフォームへ。]

■ 都市部でも増え続ける空き家を困った問題にするのか、都市の快適性のために活用するのか。

人口が減少しているので、当然空き家は増加します。にもかかわらず、未だに新築の建売・セミオーダー住宅がどんどん提供されているのにも大きな「?」を感じます。
新築では100%自前のエネルギーでまかなえるエコ住宅も開発されていますが、どうもリフォームではそのノウハウ開発が遅々として進みません。

実は今、わが家でも「脱東電」をテーマに設備のリフォーム計画を検討していますが、どうも簡単ではありません。
間違いなくこれからの建築のトレンドは、新築ではなく、せっかく空いている家や今住んでいる家のリフォームのはずです。
経済的な意味でも、資源的な意味でも、これまで邁進してきた新築のノウハウ開発を、リフォームに向けるべきだと思います。

それにつけても残念なのが、国立競技場の解体がほとんど済むのを待つように、様々な新競技場の問題が出て来たことです。そこには行政の不誠実さ、財政の危機感の皆無さ、さらに悪意すら感じます。
そういうことが、ビルや住宅建築の制度や規制などでもおこっているに違いないと思ってしまいます。
自分たちさえ給料とは別の税金のおこぼれを大手業者からかすめとれればいいという身勝手極まりない欲望を感じます。もちろん政権との共同作業ですが。

それぞれの生まれた場での活動が拡大していくと、人口減少とあいまって、大都市の過密度は軽減されていきます。それはそれで快適性を上げることです。また、大きく広がった通勤圏も、より短い通勤時間を求めて縮小していきます。これもまた快適性向上に寄与するでしょう。

けれどもそうなれば、遠い郊外のアパート、マンション、戸建などには空き家が増加するでしょう。
過密度や遠距離通勤の解消という自然発生的な大都市の快適性向上と共に、そうした空き家、空きスペースをどう有効に活用していくかは、大きな課題です。

また、東京圏でいえば都区内の空き家の問題もあります。遠い郊外からの移転者のために、住宅として再利用できるものはそうすべきでしょう。また、古すぎたり消防車などが近づけないような立地条件のものは、取り壊してスペースとして再利用すべきでしょう。

郊外にしても都区内にしても、都市環境を少しでもよくするように緑化したり、野菜づくりを趣味として楽しみたい人のための菜園用地にしたりすることが望まれます。

この空き家を困った問題にするのも、大都市圏居住者の快適性向上に役立てるのも、ビジョンとプランの構築と制度次第です。
今の制度のままの成りゆき任せでは、空き家を困った問題にすることしかできません。

どんなことでも、ほっておけば問題になるけれど、固定概念にしばられずちゃんと考えれば大チャンスになる。というのが今という転換期なのだと思います。
問題ばかりで絶望するのか、ワクワクするこれからをイメージするのかで、本当にこれからは180度違ったものになると、私は確信しています。

次号以降も、この転換期をワクワクするものにしていくイメージを、もう少しお伝えしていきたいと思います。

みなさんは、どう思われますか?

みなさんのご意見、ご感想などお待ちしております。

 

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2015年11月26日 『きゃりあ・ぷれす』発行人 宮崎郁子

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