◎ アフガン復興にマイクロクレジットの導入を◎
=バングラデシュ・グラミン銀行ユヌス総裁インタビュー=
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 貧困に苦しむ人々に対して数10ドル単位から無担保・低金利で貸し付け、それを元手に小規模事業を始める借り手の経済的自立を促す−。マイクロクレジット(小規模信用貸し付け 以下MC)と呼ばれるこの手法で先駆的な役割を果たしてきたバングラデシュ・グラミン銀行のムハマド・ユヌス総裁がこのほど来日し、長期の内戦と米国の空爆で壊滅状態となったアフガニスタンの経済復興にもMCを導入するよう訴えた。アフガン復興になぜMCが有効なのか。世界のMCやグラミン銀行の現状も含めてユヌス総裁に聞いた。

 【アフガン復興とMC】グラミン銀行は1983年、経済学者だったユヌス総裁がわずかな資金不足のために困難に直面している人々を目の当たりにした経験から、信用履歴を優先して貸し出す商業銀行とは異なる融資手法であるMCを実践するために設立された。これまでに約240万人の借り手(うち95%が女性)に対して、総額約34億ドルを融資。

「女性への融資が貧困脱出のカギ」という信念の下、借り手の3分の1が間もなく貧困層から脱出できる見通しとなった。グラミン銀行の成功をきっかけに、MCは貧困地域の経済的自立を実現する有効な手段として世界的に注目され、現在では世界70カ国以上の金融機関やNGO(非政府組織)でMCの手法を取り入れた融資が行われている。

 −アフガン復興にMCはどのように応用できるか
 アフガンは経済が壊滅的打撃を受け、人々は収入を得る手段を失った。これを取り戻すために必要な資産を購入するには、資金が必要となる。農民ならば家畜や農機具、肥料を買うためのお金だ。加えて避難民の帰還も進んでおり、彼らにも資金が必要になる。MCは商業銀行からの融資を得られない最貧層のためのものだ。MCを足掛かりに彼らが収入を得られるようになれば、消費したり人を雇ったりすることを通じて経済が動き出す。これが重要だ。

 MCは特に女性のための融資でもある。この点でも、MCはアフガン復興に有効だ。アフガン女性はこれまで注目されることがなかったが、MCは彼女たちの自己尊厳の回復に寄与できるだろう。

 −アフガンで過去にMCが行われたことはあるのか
 タリバン政権下のカンダハルで1997年から約1年間、グラミントラスト(グラミン銀行の活動を海外で実践する非営利団体)が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とともにMCを実践した。

 ただ、タリバンとの間には常に問題が生じた。彼らは何より女性への融資が気に入らない。そこで、われわれはまず男性に融資すると約束した上で、徐々に女性への融資を拡大した。6ヶ月間はうまくいったが、突然彼らは「グラミン銀行が借り手をキリスト教に改宗させている」と言いがかりをつけ、業務停止を命じた。

われわれは「それは違う」と説明し、UNHCRの協力でタリバン当局者をバングラデシュに連れて行き現状を見せたところ、彼らは納得して帰国した。しかし2ヵ月後、今度は「グラミンの借り手である4万5000人もの女性が離婚した」との理由をつけて再び業務停止を命じてきた。われわれは再度説明して理解を得たものの、こうしたやり取りに疲れて最終的に撤退した経緯がある。

 −アフガンでのMC導入に向けて、日本政府とすでに具体策の協議に入ったか
 まだ提案した段階だ。MCはNGOでも実践できる。ユーゴスラビアのコソボ自治州では、イタリアの政府系基金から3年間で500万ドルの資金援助を得てわれわれがMCのプログラムを作成し、現地のNGO職員向けに研修を行ってMCをスタートさせた。現在は実施主体となる組織を現地に作り、最終的には全面的に移譲する。スタートしてまだ1年半だが、女性たちはMCを元手に家畜を飼ったり農業を始めたりしている。返済率は100%、大変良く機能していると言える。外部の人々からは「コソボでは100%の返済率はありえない」と言われたが、全くの間違いだった。

 日本政府が仮に先のアフガン復興支援会議で決定した支援額(2年半で5億ドル)の5分の1をMCの財源に回してくれるだけで、アフガン全域でMCを始めることができる。準備はすでに整っており、申し出があればわれわれはすぐに動くつもりだ。

 先日、日本のある大手新聞社の社長に「アフガン復興で日本が果たせる役割は何か」と聞かれたので、まずはMCだと答えた。次いで報道や携帯電話、インターネットサービスなど人々をつなぐIT(情報技術)の提供。ITは政情不安の温床となる相互不信を払拭したり、新たな知識や情報を得るために極めて有効な手段だ。このほか、若者が宗教学校だけではなく、民主的な教育機関で教育を受けられる機会を提供することも重要だ。

 【グラミン銀行の現状】グラミン銀行は借り手をグループ化してメンバーの相互承認に基づいて融資を実行するとともに、互いにチェックし合いながら返済を進めるシステムを確立し、95%を超える高返済率を維持してきた。しかし、ここ数年返済率の低下が続き、昨年末には米経済紙にMCの限界を指摘する記事が掲載された。

 −確かに返済率は1998年(93.52%)から2001年7月(89.57%)の間で低下し続けた。何が要因か。
 1998年の大洪水という特殊事情があったためだ。この時は、国土の3分の2が浸水する事態に見舞われた。しかし、返済率低下の原因は明らかだったので、われわれは債務免除に踏み切ることは決してせず、その代わりに過去の返済歴を考慮しない形で緊急ローンを提供するとともに、返済期限の延長にも応じた。返済率は現在90%に回復し、今年末には97%、98%にすることを目標にしている。

 −記事に対する反論(ウェブサイトに掲載)の中で銀行の構造改革に触れているが、具体的にどのような改革を進めているのか
 グラミン銀行のMCはこれまで、一律1年間の貸し出し期間で毎週一定額を返済する仕組みだった。われわれは簡潔で良い仕組みだと考えてきたが、創立から25年を経て人々のニーズも変わった。この機会に、貸し出し期間を多様化することにした。

 次に、グラミン銀行には通常ローンのほか、季節ローンや住宅ローンなど計20種類のローンがあったが、すべて一本化した。借り手はローンの目的をその都度自由に設定できるようになり、これまでのように口座の多さに混乱せずにすむようになった。

 3つ目は、メンバーに義務付けられていたグループ基金(メンバーが毎月一定額を共同で貯蓄するもので、引き出しにはグループメンバーの承認が必要)を廃止した。メンバーは、収入を個人預金と銀行の株式購入によって管理できるようになった。

 さらに、毎月収入の一定額を積み立てて10年後から受け取れる年金基金を1年前に創設した。最低額は50タカ(約125円)。10年後に約2倍半になって払い戻され、老後資金として大変歓迎されている。

 −行員の就業意欲を引き出す工夫も始めたそうだが
 1年前から、支店間競争を促し行員の士気を高める「ファイブスターシステム」を導入した。

  1. 支店内で利益を出す
  2. 支店内返済率100%
  3. 本部からの借り入れゼロ
  4. 営業エリア内のメンバーの子供全員が学校を卒業
  5. メンバー全員が貧困層から脱する

−という5つの項目を達成すると、最高レベルになるシステムだ。約400の支店のうち、4つ星が10支店ある。5つ星の支店はまだ一つもない。行員はとても楽しんでおり、ひとまず成功したと言える。

 −銀行業務以外にも多角化を進めてきた
 IT関連や繊維、エネルギーなど20団体が事業展開している。中でも丸紅との合弁で設立した携帯電話会社のグラミンフォンは成功している。インドやパキスタンにも事業を拡大している。グラミントラストは現在、中国やベトナム、ボリビア、コソボ自治州、アフリカ諸国など38カ国135地域で活動している。

グラミンエナジーは、電力のない農村地域に太陽エネルギー装置を月賦形式で販売することを通じて太陽エネルギーを供給している。このほか、海外への繊維製品輸出会社や農産物輸出会社、魚類養殖会社などもある。今後はソフト開発事業に重点を置くつもりだ。

(付記)
1997年にワシントンで開催された「マイクロクレジット・サミット」では、2005年までに世界の貧困家庭の半数である1億世帯がMCを利用できるようにするとの目標が掲げられた。MCの利用世帯は97年の約700万世帯から、2000年末には約2000万世帯に増加した。今年11月には、5年間の成果を検証する「マイクロクレジット・サミット・プラス5」がニューヨークで開かれることになっている。

(ムハマド・ユヌス総裁経歴)
1940年バングラデシュ第二の都市チッタゴンに生まれる。米バンダービルド大学で経済学博士号取得。チッタゴン大学経済学部長を経て1983年にグラミン銀行を創設。総裁として国内外でマイクロクレジットを推進する。(了)

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