きゃりあ・ぷれす

天職を探せ
様々に悩み、考え、挑戦して、
今『天職』と言えるものを見つけてがんばっている人、
見つけつつある人と発行人宮崎との対談。
天職を見つけた結果よりもそこに至る思考の変遷や
キャリアの蓄積などの経緯にスポットを当てています。
それが、今、様々に悩んだり迷ったりしている方に
少しでも役立てば幸いです。
第7回 堀内浩二さん 「起-動線」世話人
「自分ナビ」作成プログラムとは
“世に問う”という生き方
<前編>
「転職を探せ」第7弾では、「起-動線」世話人の堀内浩二さんにご登場いただきます。堀内さんは、錚々たる経歴をお持ちで、いわゆるITビジネスの最先端を歩まれた方ですが、立ちあげに参加された会社が解散になったことをきっかけとして、「自分ナビ」作成プログラムを自主開発されました。今回は、これまでの経緯と「自分ナビ」作成プログラムの中身、そして今後について伺いました。
(発行人 宮崎郁子)


堀内浩二さん
早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。
アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて鉄道会社・道路公団・学園法人・飲料メーカー・化学メーカーなど多様な業界における基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業においてCTO及び事業開発を担当。合弁会社解散後、自分の進路を考えるのに必要だった様々な要素を組み込んだ「自分ナビ」作成プログラムを開発し現在、会員制コミュニティサイト「起-動線」(eラーニングによる社会人向け人生設計支援サイト)の開発・運営を行う。
株式会社アーキット代表取締役
http://www.ki-dousen.net/


●「起-動線」について、「自分ナビ」作成プログラムとは

宮崎  「起-動線」では主にどのようなことをやっていらっしゃるんですか。

堀内  いま使っているキャッチが「社会人のための、はじめての意志決定支援サイト」というんですが、“生き方のポリシー作りの支援”みたいなことを目指しています。たとえば僕自身、起業や転職のことを思ったときに、給料が下がるけどどうしようとか、転勤が多くなると家族に何と言おうかとか、いろんなことがモヤモヤと頭に浮かんでは消えるという経験がありまして、そういういろいろな考えをボンボン投げ込んで整理する箱が欲しかったんですね。特に転職なり起業なり不動産を買うなり、ライフイベントと呼べるような大きな意志決定に対しては、自分のポリシーが非常に重要な意味合いを持ちます。

個人個人がちゃんとした価値基準を持っておけば、ある日突然、何らかの機会が訪れたときにも対応できるでしょうし、そういう賢い選択を積み重ねることで、自分の望んでいる方向へ近付いていけるんじゃないか、とそんなことを考えたんです。「起-動線」は、そういう考え方の枠組みと、それに沿って実際に考えて、書いて、自分の手元に残しておけるツールを提供しています。“自分ナビ”というワークシートみたいなものなんですが、その作成プログラムはWeb上で提供され、全12回、おのおの60分以上かかるものになっています。

宮崎  それはどういったプログラムなんでしょうか。

堀内  まず、「チャレンジの仮決め」というのをやります。たとえば、いつか沖縄に移住してのんびり暮らしたいとか、なんとなく転職をしたいなとか、なんとなく起業というものに憧れるとか、やりたいことがある人はそれを宣言してみる。何がやりたいか分からない人も、とにかく書いてみる。価値観、つまりWHATが明確ならHOW、やりたいことは自然と決まると言いますよね。起-動線でもそう考えてはいますけど、いきなり価値観と言われても出てこないものです。だから「仮決め」でいいからやりたいことをまず挙げて、それによって自分の何を喜ばせようとしているのかを考えてみるという順番にしています。

価値観も、「とりあえずバージョン」をまず作ります(笑)。そこから、たとえば「ドシテ君との対話」なんて名前のエクササイズがあるんですが、自問自答形式で、自分はこうありたいというイメージを掴んでいけるように工夫しています。ありたい自分は内面的な観点と、自分を他者に対して活かすという観点と、2つの観点から考えていきます。

で、「やりたいこと」と「ありたい自分」の関係をじっくり考えます。価値観といっても一色じゃないですよね。たとえば移住するということは、家庭人としての自分を大きく満たすものではあるけれど、仕事面、自分の能力を世に問うという観点から見ると少しマイナスかもしれない。そういったことを網羅的に、またかなり論理的にブレークダウンしていけます。

そのチャレンジに対して、自分は何を「期待」し、何を「覚悟」し、何に「不安」を持っているか。そういうことを“ライフ・アーキテクチャ”という9つの視点から整理していきます。そして納得のいく物語が作れるかどうかやってみます。

宮崎  会員制ということですが、何人位のどんな方が参加していらっしゃるんですか。

堀内  登録ユーザーが800人、実際にプログラムを使っている会員は90人くらいですね。オープンして半年ちょっとですから、頑張っていると言えば言えますが、仲間は多いほうがもちろんいいですよね。年代は、高校の授業でも使っていただいたことがありますし、50歳代の方もいますし、バラバラですね。男女比は、やや男性が多いかな。あと、海外と地方の方が多いのが特徴だと思います。パリとかジャカルタとか台湾とか。ふつう異業種交流とかネットワークっていうと、セミナーやオフ会がメインになりますが、起-動線はできるだけグローバルがいいなあと思ってやってます。

宮崎  ところで、「起-動線」という名前はとてもユニークだと思うんですが、どこから思い付いたのでしょうか。

堀内  もともとは、“人生の動線計画を作ろう”みたいなことを考えていました。“動線計画”とは店鋪や都市の計画の際に、人の流れを設計することです。“動線”ということばの響きが、ダイナミックな感じがして好きなんです。良品計画という名前の会社もあることですし(笑)、“動線計画”でもいいかなと思っていたんですが、それだと検索エンジンなんかでで本物の動線計画と一緒にされてしまいますので、独自に考えることにしました。

で、“起”という漢字をつけました。“起(た)つ”、“起きる”という字がつくと、“自分の足で立って動線計画を引いていく”というイメージが出るかなと思いまして。発音したときの響きもありますね。“き”はシャープですし、“どうせん”には濁音の迫力がありますよね。そして “ん”が入るとヒットするとか縁起がいいとか、どこかで聞いたような気がして(笑)。−(ハイフン)を入れたのは、“起動する線”と思われちゃうと何 だかコンピューター部品の会社みたいなので(笑)。

宮崎  堀内さんにとって「起-動線」は本業ですか。

堀内  今のところは本業です。カネ儲けありきでやっているわけではないので、期間を決めて、2年間と考えているんですが、その間は徹底してこれに取り組んで、事業として成立させられるかどうか見極めたいと思ってます。もう8ヶ月やってきたので、もう1年少々はこれをメインにしたいと。ただしフルタイムの仕事にならないとしても、起-動線は続けます。

理屈で考えれば、例えば土日でやっていって、軌道に乗った時点でメイン業務としてシフトしていくというのが確実だと思うんです。まあ、それが僕の場合はたまたま突然会社が無くなったことが契機になっているので、経済的な収入が置き去りになってしまっています(笑)。

収入は、現在は貯蓄を取りくずしています。まあ、いつかはこういう、リスクを取る時期を持ちたいと思っていたので、車も家も買わずに来てました。やはり多少蓄えがあるからこそ、こうやって自分で有意義と確信できる事業に取り組める時間が持てるという側面はありますね。

そうはいってもこのままではやっていけませんので、いまは集中してできるだけの力を「起-動線」に注いで、サービスを拡大すると同時にオペレーションを合理化する努力をしています。その上で、「起-動線」と僕の好きな分野でもあるIT戦略とのシナジーが見込める仕事を探していければいいなと考えています。

「起-動線」はNPOでなく普通の事業として運営しています。これは僕なりに考えるところがあっての選択なのですが、こういう取り組みは、利益優先ではユーザーの支持は得られません。ですから個人の立場に立っていることを明確にするために、企業のスポンサーを付けて広告費で運営するようなやり方を避けています。この辺の舵取りが本当に難しく、日々試行錯誤といった感じです。

● 化学専攻からITコンサルタント、会社設立への参画、そして会社の解散

宮崎  「起-動線」では主にどのようなことをやっていらっしゃるんですか。