きゃりあ・ぷれす

りーだーず・ぷれす
「自分で何かをやりたい」「発信したい」と考える
『きゃりあ・ぷれす』読者による連載コラムです。
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トナリノさん
『トナリノ通信』
第6回
裁判員制度がスタート
〜国民の司法参加がうまく反映されるのか〜
いよいよ平成21年5月21日から「裁判員制度」がスタートします。裁判員制度とは、被告人が有罪かどうか、有罪の場合にはどのような刑にす るのかを裁判官と国民が一緒に決めるという「国民の司法参加」を実現する制度です。
私はこれまで、自分は裁判などとは無縁であろうと思って生きてきたのですが、これからはそうではないのだと感じ、裁判員制度の勉強会に参加するなどして自分なりに学んでみました。
これまで、日本の国民の司法参加においては、それに値する制度をほとんど持っていませんでした。そこで、平成の司法改革において、「国民の司法参加」が改革のひとつの柱とされ、裁判員制度が導入されたのです。民主主義においての、国民の裁判への直接参加の実現です。裁判に時間と費用ががかかりすぎる、法曹人数の少なさ、人権侵害に値するような警察の取調べの問題など、刑事裁判の実態を改善する必要があるなどの理由もあります。
国民の司法参加を比較的に見ると、アメリカに代表される英米型の陪審制度と、ドイツに代表されるヨーロッパ大陸型の参審制度の二つの型に分けられます。陪審制度は、国民が法律専門家でないことを考慮し、裁判における事実認定(どのような事実があったか、なかったか)にのみ関与するものであり、参審制度は、国民が素人裁判官として専門法律家である職業裁判官と対等に裁判に関与するものです。
裁判員制度は、英米型の陪審制度でもなく、ドイツ型の参審制度でもない新たな日本型を作り出したといえると思います。国民を、裁判官に協力する補助的な役割にとどめたもの、と言うことができると思います。私はここを思い違いをしており、職業裁判官と対等に関与するドイツ型だと思っていました。おそらく私と同じ勘違いをしている方も多くいるのではないかと思います。広報だけでは知り得なかったことです。
裁判員の関与する権限は、①事実の認定 ②法令の適用 ③刑の量刑 です。裁判員の関与する事件は第1審の地方裁判所の刑事裁判であり、そのうちでも重罪事件に限定されます。重罪事件ですから、死刑、無期懲役、禁固などの判決を下す場面ばかりになるでしょう。なぜ重罪事件限定なのかと思いましたが、事件数が多いと、裁判員を務める国民の負担が大きくなりすぎるという考慮や、重罪事件にこそ普通の感覚の考えが必要などの意図があるようです。しかし、精神的負担に対する配慮はどうなのでしょうか。しかも、国が被告である公害や薬害訴訟には、国民の考えは反映されないことになります。
国民の負担も多くあります。裁判員に選任されれば勝手に辞退することはできず、また期日に正当な理由なしに出頭しなければ、10万円以下の過料に処せられるというのです。更に、裁判員には厳格な秘守義務が課せられ、評議の秘密、職務上知り得た秘密を漏らしたときには、6ヵ月以下の懲役、50万円以下の罰金に処せられるのです。このような制度のもとでは、裁判員の職務は国家によって義務を強制されるものという印象が強く、時間や仕事上などの物理的負担や精神的負担が多すぎると感じざるを得ません。また、家族や周囲の協力も不可欠になってくると思います。
私の住む地域の場合、約6060人に1人が選ばれることになりますが、有権者名簿からくじによって選ばれることになり、毎年実施されます。裁判員制度では、膨大な証拠の取調べは不可能ですから、証拠や争点を絞ったうえで審理の短縮化を図ることになります。しかし、大きな事件で短縮化が図れるのでしょうか。必要な証拠を取り調べ、真相に迫ることができるのでしょうか。模擬裁判では、大型モニターにフローチャートや画像などを映し出して、視覚的に把握できるようにするなどの新しい工夫もあります。しかしリアルな犯行再現現場などを見せられて、果たして冷静でいられるでしょうか。不安が募ります。
不安は他にもあります。一般人が裁判員になると、どうしても感情的になると予想されます。今までは遠かった被害者や遺族の声に裁判の中で直接触れることになるのです。感情に走ってしまい冷静な判断ができるか、刑の厳罰化には繋がらないかなども心配されます。また、裁判官なら職業的に死刑判決を下すこともできるでしょう。しかし一般国民は心理的な訓練を受けているわけでないので、トラウマの影響が過小に評価されているのではないかとも考えられ、これらに対するケアが必要だとも思います。一方、乳幼児保育施設については自治体で用意はしても、費用は自己負担です。要介護者を抱える人の場合も同じです。裁判員として従事する間の休暇取得にしても、有給休暇で対応できる人と日給制で仕事をしている人との間に不公平感が生まれないかなどの問題もあります。
こういった不安や課題を残したままのスタートが目前に迫りました。自分の判断で被告人を裁くことになるこの制度が義務付けられる以上、基本的な法の制度をしっかり理解し、国民の司法参加のもとでの刑事裁判の実情を点検し、健全な社会常識がより反映された裁判の実現に向けて改善がなされることを願いたいです。