きゃりあ・ぷれす

りーだーず・ぷれす
2003年1月22日号
「風のがっこう京都」研修体験記
■「自給自足」社会を「創業」しよう!……………木村麻紀
  ・デンマーク、生きる条件を守る国づくり
  ・「ムダ」にエネルギーを費やしてきた?ニッポン
  ・石油危機を生かせなかった「失われた30年」からの脱出
  ・どんな国に住みたいか? 決めるのは私たち

<<研修参加者からのメッセージ>>
  ○今年は平和な世界にキーワードは「自給自足」(福井富久子さん・滋賀県在住)
  ○未来から借りてきた美しい地球を美しいままで
  後世に返すために私にできること(高木明英さん・奈良県在住)
  ○環境と平和の21世紀にしたい!(小畑せい子さん・京都府在住)

■危機的状況を日本のチャンスにする方法……………宮崎郁子
  ・国が国民を守るとは? 国の独立・自立とは?
  ・日本とデンマークの違いは、役人の質、国民の質
  ・日本が元気をとりもどせる将来ビジョン
「自給自足」社会を「創業」しよう!デンマークの環境・エネルギー政策に学ぶ日本の進路─「風のがっこう京都」研修体験記
木村麻紀
「きゃりあ・ぷれす」では昨年、持続可能な地球環境と利益を両立させるビジネスのあり方や個人の生き方をめぐって、内外の動向やそれにまつわる人人の姿をお伝えしてきました。その過程で、確かに「地球環境と利益の両立」「地球環境と人間の共存」を目指す考え方に共鳴する輪が急速に広がっていることを実感できた一方で、ビジネスや日常生活の場でこうした考え方を実現させるためには、変えなければならない根本的な要素があると考えるに至りました。
その一つが「エネルギー」です。環境と利益をバランスさせたビジネスを行うにも、環境に配慮した日常生活を営むにも、私たちの誰もが電気を主体としたエネルギーを使わざるを得ません。しかし、そのエネルギーに関する日本の現状に目を向けてみると……。自給率はたったの4%(1999年)、しかも発電量の3分の1は原子力──。いつまで続けられるのか、いつ暴発してしまうか明確な答えを誰も持ち得ない状況にフタをしたまま、持続可能なビジネスや生き方を論じてみたところで、それらはすべて絵空事に終わるのではないか。
こうした疑問を胸に、発行人の宮崎と私コラボレーション編集スタッフの木村は昨年11月、日本海にほど近い丹後半島に設立された「風のがっこう京都」( http://www.kazenogakko.ne.jp/top.html )を訪れ、環境エネルギー分野で先進的な政策を進めてきた北欧の小国デンマークの現状を学びながら、日本の環境エネルギー政策の将来と21世紀のビジネスの可能性を考える研修に取材参加しました。
2003年最初の「きゃりあ・ぷれす」からのお題は「エネルギーを変えて未来を切り開く」。「風のがっこう」で学んだことや一緒に学んだ同志の皆さんの感想をご紹介することで、読者の皆さんにも自分が理想とする社会とエネルギーとの関係に思いをはせていただけたらうれしいです。

■デンマーク、生きる条件を守る国づくり

「風のがっこう」は、日本向けの風力発電機の輸出仲介やコンサルティング業務で活躍するデンマーク在住のケンジ・ステファン・スズキ氏が主宰して昨年6月に京都府弥栄町に設立された研修施設です。
今回の研修でご一緒させていただいたメンバーは、私たち「きゃりあ・ぷれす」組のほか、公務員やソーシャルワーカーから太陽光発電パネル製造メーカーの研究員などなど、出身もキャリアも年齢層も様々な(バラバラな!?)計8人。「所属する地域のNPOで、ビジネス的手法を取り入れた環境保全活動を自治体に提言したい」「太陽光以外の再生可能エネルギーについて学びたい」など、参加の動機も様々でした。
ケンジさんによると、デンマークは1973年の石油危機を教訓に、輸入石油への依存度を減らすべく、資源リサイクルを柱とした徹底的な環境保全と、風力やバイオガス(有機廃棄物から生じるメタンガス)発電を中心とした再生可能エネルギーの開発とを同時並行で進めたそうです。例えば、ビンやペットボトルをデポジット(預託金)制にするとともに、型を統一して何回も再利用する(ペットボトルからフリースを作って胸を張るという発想とは違いますね)ことなどによって埋め立て量を減らす施策を進めました。その結果、最終処分場の延命に成功しています。ちなみに、原子力発電については廃棄物処分や安全性の観点で問題が残るとして行っていません。こうして、72年には日本と同様に低かったエネルギー自給率(たった2%)は2000年に何と139%となり、デンマークはエネルギー輸出国に転じました。
ケンジさんは、デンマークの環境政策の特徴を「生きるための4条件、すなわち空気と水、食糧、エネルギーを守ること」だと表現していました。化石燃料の使用を減らして大気汚染を防止することで空気を守る。農薬や化学肥料、家畜の糞尿散布を抑えることで、飲料水としての地下水や食糧の質を守る。残された糞尿などの有機廃棄物を使ったバイオガス発電など、多彩な再生可能エネルギーを利用することでエネルギーを守る──。言われてみると、すべてその通りです。デンマークが環境保全とエネルギー、農業の課題を密接にリンクさせ合いながら国づくりを進めてきた様子が非常によく理解できます。

■「ムダ」にエネルギーを費やしてきた?ニッポン

これに対し、日本の環境・エネルギー政策へのケンジさんの評価は非常に厳しいものがありました。
日本は実は世界でも有数の太陽光発電推進国ですが、自治体などを通じて補助金を利用しても、現状では設備を設置してから投資費用を回収するまでに20年以上を要してしまう例がかなりあります。一方で、日本では年間9000万〜1億トンもの家畜の糞尿が出ており、その半分が大地に放出されて農地や地下水の汚染を進行させています(ある養豚県での土壌の窒素含有量は1平方メートル当たり約500グラムで、これはEUの許容量の約3倍にも相当します)。農地や地下水汚染を浄化でき、かつエネルギーとしても利用できるという点を考えれば、日本は同じ再生可能エネルギーでもバイオガスのほうをもっと推進すべきだというのです。
また、日本は再生可能エネルギーの推進と口では言っておきながら、欧米先進国ではさかんな最終処分場での廃棄物発電(一般・産業廃棄物から放出されるメタンガスを利用)をなぜか行っていません。メタンガスが、地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)以上に、放出すれば環境への負荷が高いとされているにもかかわらずです。そして何よりも、デンマークではルール化されている電力会社の再生可能エネルギーの買取義務(発電量の20%は再生可能エネルギーでなくてはならない)や、電力会社への売電価格体系(電気料金の85%に国税の電気税やCO2税を上乗せした額でしたが、2000年の全面改訂で売電価格は以前より幾分下落したようです)が存在しないことが、日本の再生可能エネルギーの普及を阻害しているのではないかと言います。
ケンジさんの話は、エネルギー政策のあり方に関する生産的な議論を避けてきた日本の姿から、日本人の生き様にまで及びます。
日本で1人が1年間に排出する廃棄物は4トンにのぼり(ちなみにデンマークは約半分です)、一人当たりの廃棄物処理事業費は75年の4816円から97年には4.3倍の約2万1000円にまで増えました。こうした現実を引き合いに出し、ケンジさんは「75年以降の23年間で日本人の給与所得も4.3倍になったか」と問い掛けます。調べてみると、名目上は4.3倍以上になっていましたが、所得が増えた一方で廃棄物処理費用もほぼ同じだけ増えたという事実は動きません。「これだけ働いても皆が家を建てられないのは、日本人が物を捨てるために働いてきたからとは言えないか」というケンジさんの指摘はあまりに痛烈です。

■石油危機を生かせなかった「失われた30年」からの脱出

ケンジさんは講義を通して、エネルギーを大量に使用しながら経済成長を果たしてきた70年代の石油危機以降の日本の現実を、私たちにイヤというほど見せつけました。関西地域からのグループの方々も交えた参加者同士の議論は、日本がデンマークのように石油危機の教訓を生かすことができなかった理由をめぐって発展しました。「日本の現状や将来の方向性を提示する教育を受けてこなかったから」「日本の民主主義は与えられたもので、自分の手でつかんでいないから」──。現状を見つめ直すことから出発するしか、本当に生活したい国にするための方策を日本人自身が考えて実践することは不可能だということを、図らずも実感させられた一幕でした。
ケンジさんは、最後にちょっとしたヒントを与えてくれました。例えば、▽ホテルやデパートに最近よくいるコンシェルジェのように、環境に配慮したあらゆる製品やサービスを紹介してくれる「グリーンガイド」を養成する▽宅配便ネットワークとタイアップして、エコ商品を全国に流通させる仕組みを作る▽日本中にあるマツの木を燃料化して活用する──などなど、環境とビジネスをつなげる試みはいくらでもあると。そして、今日本に最も必要とされているのは、エネルギーと食糧の輸出国に転換させることを目指して「自給自足」に戻ろうとする過程の中から「仕事を創り出す」ことだと訴えていました。
フリーターを含めれば失業率15%と言ってもいい日本の現状。世界に目を転じれば、石油の枯渇が50年後とも予想される中にあって中国の石油消費量は伸び、一方で深刻に進行する環境破壊──。ケンジさんの言う通りの方向に日本が動き出すことは、世界的に見ても非常にメリットが大きいと言えるのではないでしょうか。

■どんな国に住みたいか?決めるのは私たち

目指すべきエネルギーの将来像が見えてきた今回の研修旅行。しかし、現実に戻れば事はそう簡単ではありません。
現在、首都圏で使用される電力の約4割は福島県と新潟県の原子力発電所から供給を受けています。しかし、東京電力は原発設備点検記録の改ざん問題の発覚で定期点検による原発停止を余儀なくされたため、現在ひたすら消費者に節電を呼び掛けています。その一方で、師走の街はいつもの通りネオンであふれていましたよね。原子力に代わる再生可能エネルギーの普及や省エネルギーに向けた議論が盛り上がっているとは、とても言い難い状況です。
だからこそ、まず考えてみたい。どんな国に住みたいのか?そして、その思いを実現させるためにどんどん声を出し、かつ行動を始める──。2003年、「きゃりあ・ぷれす」と読者の皆さんとの約束です。

研修参加者からのメッセージ
研修に参加したメンバーの3人から感想メッセージをいただきましたので、以下ご紹介します。

■今年は平和な世界にキーワードは「自給自足」 福井富久子さん・会社員・滋賀県在住)

昨年7月にデンマーク、ドイツに環境のテーマで旅行しました。その時、デンマークの風のがっこうにも行き、国の政治や、国民の考え方があまりにも違い、カルチャーショックを受けました。そしてそのことに気づく橋渡しをしてくださっているケンジ・ステファン・スズキさんが京都にいらっしゃるのを知り、昨年11月に風のがっこう京都に15名で訪問しました。
お話を何回かお聞きしていますが、私達の情報はやっぱり片よっているな、といつも思います。
「日本人であることをやめたくなることがある」と年賀状に書いていらっしゃる友人があって、本当に私もそうだと思う今の日本。今の日本は一部の人の利益を優先した弱肉強食の世界へ突き進んでいるとはっきり言えます。デンマークや、スエーデンでは「みんなが幸せになれる国」「幸せになる権利」を保証するため、国の役割は「エネルギー、水、空気、食糧」を大切にし、自給することとしています。
どんな単位ででも自給自足を目指すことが最初の一歩なんですね。そうすれば、アメリカのイラクへの石油戦争のような戦争は起こらないはずだし、日本の農業も大切にするべきです。
日本の国をどうするかは、それぞれ自分の頭で考える事が必要だけど、そのためにも、もっともっと日本のこと世界のことを知る必要があると思いました。今はアメリカの情報一辺倒では? 本当に日本人の勉強は、詰め込みばかりではないでしょうか?
デンマークの教育目標は「自己の可能性に自信を持たせ、自己判断力と自己決定力を養う事ができるようにする。学校では、生徒がデンマークの文化に親しみ、他文化及び、人間と自然の相互関係を理解しそれに貢献できるようにする……」と書かれ、行動力のある国民を育てるようにしているとも聞きました。なんて素晴らしい!
デンマークは素晴らしい国であることを知ると同時に、日本も自然がまだまだ残り、四季があり、伝統的な文化もある素晴らしい国であることを改めて見なおす機会になりました。
私達に必要なのは、当たり前なんですが、今の状況をよく知り、よく考え、良いと思ったことは実行する事だと思いました。そして、今年は地方選挙の年です。「こんな政治にしたいという夢を持ち、政治は変えることができるのだ」を実感できる年にしたいものです。


■未来から借りてきた美しい地球を美しいままで後世に返すために私にできること(高木明英さん・会社員・奈良県在住)

私は幼いころから環境問題とエネルギー問題に大変関心があり、それらを少しでも多く解決したいと考え、私にできることは太陽光発電システム(太陽電池)の研究開発であると学生時代に結論付け、現在シャープで太陽電池の技術開発をしています。今年入社したばかりでまだ会社の足を引っ張ってばかりですが、一日でも早くこの美しい地球を半永久的に美しいままで後世に引き継いでいけるように日々努力していきたいと考えております。実際どれほど努力しているかと問われればお恥ずかしい限りですが……。
「風のがっこう京都」では新エネルギーの代表格である風力発電のことについて学べると思い、また環境に対する意識啓発、そして自らの太陽電池の研究開発の意欲をさらに高めるために今回の研修に参加させていただきました。
実際に風力発電システムの詳しい制御法や系統連携システムのお話、デンマークでのエネルギー自給のための廃棄物発電やバイオマス発電の話など大変興味深いお話ばかりで、かなり充実した内容でした。
それに加えて参加されたメンバーの方々が本当に意識の高い「熱い」お方ばかりで大変刺激を受けました(笑)。
この研修を終えた今、私の感じていることは、参加された同志の方との会話を通して、風力発電と同時に太陽光発電システムも本当に必要とされているということがあらためてわかりました。そして、風力発電を新エネの先輩として追いつき、追い越してやるぞ!と本当に決意を新たにしているところです。


■環境と平和の21世紀にしたい!(小畑せい子さん・無職・京都府在住)

2003年が明け、新年早々、アメリカのイラク攻撃が取りざたされる報道が発信されている。戦争は最大の環境破壊といわれるが、戦争の20世紀を今尚、この地球に引き継いでいくのかと思うと人間の傲慢さ、愚かさを嘆き悲しんでいる。
しかし、何もしないでいる愚かさから脱皮して、何か自分でできる行動をしなければと。
昨秋の風のがっこう研修に参加して、最後の討論で若い女性から出た「オイルショックの時、デンマークではその教訓からエネルギー自給率を高めたが、当時大人であった皆さんはどうしていたのか?」との問いに、私は大変なショックを受けた。その言葉は、子どもであった私が両親に「どうして戦争を回避できなかったか?」と問うたことと同じではないかと。自分自身の無知を恥じることになった。
生きているということは、ただ息をしているのではなく、この歴史に責任をもつことであるということを考えさせられた研修であった。今、私は、同じ過ちを繰り返さないように、ひとりひとりの力は小さいが、同じ志の人々と手と手を携え連帯することの大切さを感じている。まず、何ができるかと問われれば、「時間を金で買っていた生活から、時間をかけて丁寧に生活を営むこと」から始めよう。環境をファッションにせず。
いまの危機的状況を、
日本がよりまともな方向に向かうためのチャンスにする方法
宮崎郁子
私が今回の研修ツアーに参加したいと思ったのは、次のような視点によるものでした。
○環境や資源、そして何より私たちの精神的な部分で、これまでの欧米型、特にアメリカ型の消費社会、拡大指向社会、経済至上社会(いわゆるグローバルスタンダード的社会)が行き詰まっているという視点。
○そういう社会に替わるオルタナティブな価値観と方向性、そしてそれによって実現するであろう社会の姿についてのイメージを明らかにする必要性があるという視点。
○それは、日本という地に根ざしたオリジナルなものであるべきだが、参考となりうるケースについては知っておくことが不可欠だろうという認識。
○そして、その有力な情報は、おそらく北欧にあるだろうという期待。

こうした視点と期待を胸に、2泊3日の早朝から夜までびっしりの研修に参加したのですが、その内容は期待をはるかに超えた衝撃的かつ濃厚なものでした。その骨子は木村記者が書いてくれているので、私はこの研修を通じて特に強く感じたことをいくつか書いてみたいと思います。

■国が本当に国民を守るとはどういうことか。国の本当の独立、自立とは何か

『国が本当に国民を守るとはどういうことか。』それは「人間が生きるための基本条件──空気・水・食糧・エネルギー」の安全性と安定性、継続性を確保すること。『国の本当の独立、自立とは何か。』安全な空気・水・食糧・エネルギーを自給すること。
「風のがっこう」を主宰するケンジ・スズキ氏は明解に語りました。このあまりにも簡単明瞭な、しかしそれゆえ力をもつ基準からすると、この論点をないがしろにした国防や独立性の論議がどんなに声高に叫ばれようとも、いまの日本が本当には国民を守ろうとしていないこと、独立・自立などにはほど遠いことはいやでも明らかです。
この論点をすりかえた国防や愛国心の論議は、「まやかし」以外の何ものでもないと強く感じました。

■日本とデンマークの違いは、役人の質。そして国民の質

ケンジさんに言わせると、日本の役人にはプロフェッショナルがいない。そのことが、まっとうで独自性のある施策を継続的に進められない理由だ、と手厳しく指摘します。
私自身も、行政や公共関係の仕事をしながら、長期のプロジェクトにもかかわらず肝心な推進担当や責任者が2年ごとにコロコロ替わることの異常さを感じているのですが、一般的にはその理由を、長期に同じプロジェクトにもかかわることによって汚職や癒着の温床となることを避けるためと言われています。そのことをケンジさんに話すと「それは制度の問題ではなくモラルの問題です。」とキッパリ言われてしまいました。全くその通りです。モラルの欠如を制度で補おうとして肝心の仕事がちゃんとできないのでは、税金を何のために払っているかわかりません。
また、モラルの欠如は、行政だけでなく大企業にもいえることです。モラルの問題となると、今度は教育の問題に進まざるを得ません。
今回の研修で教科書として使った分厚い資料は、ケンジさんがオリジナルで作成したもので、デンマークの環境政策から風力発電、バイオガス、廃棄物利用についての詳細はもちろん、日本の現状や環境問題、ひいては日本の教育問題にまで及びます。
ケンジさんが両国の教育法についてチェックしたところ、日本の児童教育の目的とデンマークのそれとは、言おうとしている意味において大きな差はないし、環境教育の目的においても内容は同じだと感じたということです。にもかかわらず現時点でのデンマークと日本との間に、モラルや環境意識、そして様々な施策における大きな開きがあるのはなぜだと、ケンジさんは資料のなかで問うています。そして次のように結論づけて資料をしめくくっています。
「結論を急ぐと、おそらく日本での学校教育は、長い間日本の学校教育の目的に沿って教育されずにいたのではないだろうか。それでは、日本の学校教育は何を目的にされているのだろうか。」
私自身全く不可解だと思います。でも戦後これまでの日本では、悲しいことによくあることと言わざるを得ません。法律で書いてあることが、いつの間にかなし崩し的に無視され、目的も見えないまま成りゆきまかせに事が進む。そして誰も責任を取らない。でも、それを許しているのは私たち国民です。
いまの日本の行き詰まりは、こうした成りゆきまかせ、その場しのぎ、無責任体質のツケがまわった帰結なのです。デンマークは、オイルショックという危機を正面から受け止め、それを契機として新しい方向性を見出しました。その時日本は、「喉元すぎれば熱さを忘れる」といった事なかれ主義で、そのチャンスを生かせなかったのですが、いままさに日本にとって「その時」が再びやって来ているのです。この危機をチャンスと受け止めて、私たち全員がこれからの方向性について正面から考え、衆知を集める時なのではないでしょうか。今回の研修を通して、ますます「いま」の重要さを痛感しました。

■はっきり見えた「日本が元気をとりもどせる将来ビジョン」

いまの日本の将来ビジョンとは何でしょうか。全く明らかではありません。「IT」というワードが、なんだかぼやけて見え隠れしています。しかし、なぜITなのか、それが本当に日本にとって最もオリジナリティを発揮できる道なのかどうかは全く議論されていないように思えます。ITとは情報産業であって、その中身、ソフトにおいては、何といってもアメリカが先行しているし、まずおそらく言語の問題が大きな障壁になるでしょう。はっきり言って情報の価値そのものの理解すらおぼつかない日本には、国をあげて「IT立国」を目指すという決断は相当リスクを伴うと判断せざるを得ません。
それに比べて「環境」はどうでしょうか。これはITとは比較にならないくらい有望だと思えます。その理由を思いつくままに書いてみると
○日本という国土は、もともと自然環境に非常に恵まれ、日本人の精神性において、おそらく他のどの国民よりも自然や四季というものが大きな基盤をなしており、優れた自然に対する感性をもっている。
○日本は経済大国だと言われたが、実のところ経済は昔もいまも3流だと思う。日本のこれまでの成長を支えたのは、まぎれもなく技術力である。 それも特に優れているのは「小さくする技術」「効率化・省エネ技術」「精緻なコントロール技術」なのではないだろうか。そうした技術力が最も生かせるのが「環境技術」の分野だと考えられる。
○地球の資源や環境の限界は、すでに目前に迫っている。そうなる前に火星に住めるようにしなくてはというのはアメリカ人的発想だが、火星に行っても同じことのくり返しにすぎない。まず地球のなかで環境と人間との共生を追求することこそが世界的なテーマになっている。さらに中国の経済発展は、ますますそうした技術とライフスタイルへの希求を増大させる要因である。世界的にこれほどはっきり求められている産業分野が他にあるだろうか。市場は大きく、かつ飢えている。

産業として考えた場合でも、これほど有望で私たち日本人にフィットするものは他に思いつきません。その上、そこに住む私たちは安と確信します。全な生活が得られ、さらに本当の自立が可能になるのです。「環境」を取るか「発展」を取るかという二者択一の論議はすでに昔のものです。「発展」という言葉のニュアンスは、これまでのものとは異なるかもしれませんが、「環境も発展も」ということが日本人の感性と技術力なら可能だ
みなさんは、「環境」というテーマで多くの日本人がその力を結集する状況があったとしたら、どんなイメージをもちますか?何だかとても気持ちよく、夢があると感じませんか?子供に胸を張って説明しようと思いませんか?何より元気が湧いてきませんか?
「風のがっこう」での研修は、そんなイメージを明確にできた大変貴重な3日間でした。