きゃりあ・ぷれす

りーだーず・ぷれす
2005年12月21日号
高田ケラー有子著 「平らな国デンマーク」
〜「幸福度」世界一の社会から〜(NHK生活人新書)
<その1>
この本は、JMMのメールマガジンで連載されている高田ケラー有子さんのコラムをまとめたものです。JMMのメールマガジンには様々な海外からのコラムが連載されていますが、その中で特に興味深く読んだものでした。
まだ書籍化される前に、私は高田さんにメールを送りました。これに対し、高田さんは大変丁寧なお返事をくださり、その時初めて出版についてのことを知りました。(高田さんのお返事は、金曜日発行の<その3>に掲載させていただきます。)その後一時帰国された際、高田さんと直接お会いしてお話する機会もいただき、ますますそのお人柄にひかれました。
今回は、この年末年始のお休みに是非読んでいただきたい本として、今日、明日、明後日と短めに3回に分けて「平らな国デンマーク」をご紹介します。
「大きな政府」か「小さな政府」か、という不毛な論議
近頃、政治の世界では「大きな政府」か「小さな政府」かということがひとつの論点になっています。しかし、この論議はあまり意味がないと思います。問題は「大きさ」でなく「質」ではないでしょうか。その「質」の論議を全くないがしろにしての、ただ市場至上主義を善しとする「小さな政府」論は、政府の怠慢を棚上げにした不毛な論議だと感じます。「怠慢な大きな政府」か「怠慢な小さな政府」か、ということになりかねません。まず、税金の使い方の「質」を問うことが重要だと思います。
この情況の中で、高田さんの「平らな国デンマーク」は、大きな示唆を与えてくれます。言うまでもなくデンマークは、消費税25%、平均的所得税が46%という高税率のいわゆる「大きな政府」の国です。にもかかわらず、ロッテルダムのイラスムス大学の教授が毎年行なっている幸福度調査では、2004年のデータとしてデンマークは、マルタとスイスに並んで幸福度が世界一高い国と判定されているそうです。
この本を読んでも、税金が高い大きな政府でありながら、決して全体主義でなく、個人や個性を大切にする国民の気風が感じられます。
この本を読んで特に感じることは、国民=納税者が、税金の使い方や国民の代理者(決して代表者でなく代理者、ましてやお上などではなく)としての政府をしっかりウォッチし、コントロールしているということです。(ちなみに選挙の投票率は平均で80%だそうです。)その上で高い税金によって得られる様々な生活上のメリットを実感し、享受している姿が浮かび上がります。
「幸せな社会」をイメージするために
高田さんは、子育てを通じてさまざまなことを息子さんと一緒に体験するなかで感動したことを中心に書かれています。ですので「子育て」や「教育」の場のお話が多いのですが、決してデンマークの「教育」についてのエッセイにとどまるものではありません。「子育て」や「教育」を通してこそ見えるデンマークの社会全体のあり様が描かれていると思います。
「大人たちの心に余裕がある」「学校は“楽しい”以外の何ものでもない」など、今の日本が「効率」や「経済」優先の社会のなかですっかり失ってしまった情況について語られています。
もちろんそれはデンマークの文化や風土のなかで培われたあり方ですから、そのまま日本にもってくればいいということではないと思いますが、「大きな政府」か「小さな政府」かという前に、どのような社会が私たちにとって幸せなのかを私たちひとりひとりが考え、イメージやビジョンを描いていく際には、大変参考になるものではないかと感じます。
大変読みやすく、魅力的な文章ですので、是非ご一読をおすすめします。そして、どのように感じられたかなどお寄せいただければと思います。

※あす発行の<その2>につづく。
 著者高田さんからみなさんへのメッセージです。

 平らな国デンマーク—「幸福度」世界一の社会から (生活人新書) (新書) 高田 ケラー有子 (著)
平らな国デンマーク—「幸福度」世界一の社会から (生活人新書)
高田 ケラー有子 (著)